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ウルビ、ソンコ、パラ

西加奈子「ふくわらい」を読みました。

背表紙見たときになんでか「新崎人生」というキーワードが浮かんできて…。

身内の酔狂で華族の生まれの紀行作家・鳴木戸栄蔵に嫁がされた女性・多恵が娘をもうけました。
父は娘に定と名前を付けました。そうです、マルキド・サドのもじりです。後にそれを知った母はカンカンです。
父は旅でほとんど家を空けていましたが旅先からは娘に頻繁に手紙を送りました。
定は体が弱かったこともあって母はいつも定に寄り添っていました。お手伝いの悦子も熱心に多恵の子育てをサポートし定の成長を見守りました。
感情の乏しかった定は自身の誕生日であるお正月に遊んだふくわらいのトリコになり、ふくわらいによって急激に感受性を育んでいきました。いつしか定は目の前にいる人の顔でも空想の中でふくわらいをするようになりました。
定は本とホルマリン漬けで溢れかえった窓のない父の書斎が大好きでした。
定が5歳のときに母が亡くなりました。それからは父が定を旅に連れて行くようになりました。
定は旅先でとある部族の葬儀に立ち会いました。旅先でお世話になっていた女性の葬儀です。定は風習にならって女性を食べました。
父が紀行にそのことを書いたことにより定は「人肉を食べた娘」として一躍有名になってしまいました。
クラスメイトは定のことを不気味がり誰も近付こうとしませんでした。
定が12歳のときに父が亡くなりました。定の目の前でワニに食べられてしまいました。

月日は流れ、ふくわらいと同時に言葉も愛した定は文芸誌の編集者として働いていました。
よく仕事ができよく気の付く定は重宝がられる一方で、誰とでも丁寧すぎる敬語で話し、冗談は全く通じず、いかにも身なりに無頓着な風貌と、なによりいまだに「人肉を食べた娘」というレッテルがつきまとい、なんとなく距離を置かれていました。

以上、主人公・定の紹介終わり。

も~~~定がものっっっすごく魅力的!!!いわゆる不思議ちゃんなんだけど、決して自分勝手ではなくて、たとえば風呂なんて入らなくていいなら入りたくないんだけど、まわりの人が臭い思いをするのはよくないから入る、担当作家に無理難題ふっかけられても良い作品を書いてくれるならなんのその、「処女の裸が見たい」と言われれば自分の刺青だらけの裸体をさらけ出し、「晴れすぎ」と言われれば旅先で覚えた雨乞いの儀式をする、そしてできあがった作品に定は心から感動する。奇人であると同時に思いやりも兼ね備えた素敵な女性なのです!作中で定は「友情」と「恋」を覚えるのですが、初めての感情に戸惑う定がいじらしくて、読み進めるほどに定の魅力にハマッていきます。

定をとりまく人も魅力的!
定はふたりの男性の間で揺れ動く(?)のですが、

ひとりははポンコツレスラーの守口廃尊(ばいそん)。
守口が実話誌で長年連載していたコラムを単行本化するという体で終了させる仕事を定が引き継ぐことになり二人は出合います。
定が「世間一般でいうところの美人」の定義としている「顔のパーツがあるべきところに収まっている」という基準から大きく離れた彼の顔に定は心を奪われてしまいます。それはまさに一目惚れ。守口の顔写真を職場のデスクトップの壁紙にしてしまうほど。
仕事熱心な定はプロレスについて勉強する意欲を持つのですが、守口が「試合は恥ずかしいから見ないでくれ」と。定は守口の許可が出るまで見ないと心に決めます。

もうひとりがのイタリア人と日本人のハーフの盲目(?)青年、武智次郎。
雑踏の中で武智がパニくっているところに出くわした定が手助けをして二人は出合います。武智は目が見えないはずなのに定を「美人」と決めつけこれまた一目惚れ?!その日のうちに告白してしまう積極さ。翌日には再度会う約束を取り付け、二度目に会ったときは恋人つなぎでキスを迫った挙句「先っちょだけ」と懇願し玉砕。さすがの定も身の危険を感じたのか、以降定は武智の電話を無視するようになるのですが…。

定は「守口さんのことは好きだけど恋愛関係として好きということではない」と言ってるけど、読んでる側からしてみりゃそれって恋とどう違うの?と思うくらい、定は守口に惹かれています。だって「こないだ会ったばかりなのにもう守口の顔が見たい」だもん。「鳴木戸さんって人肉食った娘?」という質問にもこれまでの経験上、相手を不快にさせないために「どうやら食べたようです」と答えるようにしているのに、守口の顔に圧倒されてか「食べました」と答えてしまったり。守口の家に呼ばれたときに守口との会話の中で忘れていたことを思い出し吐いてしまったのも自分に心の内をさらけ出してくれた守口にあてられてのことだろうし。
それなのに定は守口とはなんにもなくて武智に「先っちょだけ」を許してしまったので守口派の私はガッカリー。いやまあいいんですけど。武智が定のことを愛しているのはよーくわかったので。

二人の男以外に忘れちゃいけないのが定と同じ部署で働くひとつ下の美人すぎる編集者・小暮しずく。しずくも一向に打ち解けてくれない定をもてあましていたのですが、失恋して泣きに行った屋上で雨乞いをしようとしていた定と鉢合わせ、定の前で号泣し話を聞いてもらったことで急接近。このふたりの会話の中で「どうせみんな私の顔しか見てないんだ。私の全部を知ってほしいのに」と言うしずくに「全部を知ってほしいと言われても、私が知っているのは今私が見ているあなたで全部」という定の言葉にはそりゃそうだと感心しました。
すっかり仲良くなったある日、しずくは武智のことを知るや「それってヤりたいだけなんじゃない?私が会って確かめてやる!」と息巻き本当に会いに行きます。彼女のおかげで武智の定への愛は本物だということがわかったのてすが、このエピソードで定にとって重要なのはそのことじゃなくて、しずくに「友達」と言われたことなんですね。こうして定は25歳にして初めての友達を得るのです。悦子にしずくを紹介したときに「定ちゃんにお友達ができて嬉しい」と泣く悦子の姿を見て最初は絶句していたしずくも「私も嬉しいです」と一緒になって泣き始めるシーンには私も一緒に泣きました。20代も半ばを過ぎて自分の生い立ちを話せる友達ができるなんて羨ましいなー。

プロレスファンとしても見どころたくさん!
新崎人生は記憶違いでしたが、新日に猪木に闘魂三銃士が実名で登場。猪木をひきあいにエースになれなかったレスラーの悲哀がひしひしと伝わってきます。守口が定との会話の中で言った言葉「誰でもはじめは猪木さんになれると思ってるんだ。でもそのうちなれないということがわかる。それをわかったうえでこの世界で生きていくにはキャラ作ってやっていかなきゃなんないんだ」これには多くのレスラーが共感するのでは。共感できないレスラーなんてほんの一握りしかいないんでしょうねきっと。
守口が定の人物像を評した「あんたはまっすぐだから真正面から見てすべてを受け止める」この言葉はプロレスそのものを評する言葉だと思いました。つまり、定自身がプロレスであると。
試合の描写もしっかりあります。定は守口に観戦を許されたということです。熱い描写です。定が激しい感情を見せる場面のひとつでもあります。

序盤は定の生い立ちがすごくて、父からの手紙の内容や人肉を食べる詳細な描写など、ウッ、と思うシーンもあるのですが、多幸感に溢れていて、とても心地の良い作品でした。声に出して笑ってしまうシーンがあるのも楽しいです。
この作家は他にもプロレスネタの作品があるようなのでそっちも読んでみたいと思います。プロレスネタ以外の作品も読んでみたい。
読書 | CM(0) | TB(-) 2014.07.17(Thu) 23:39
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